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退職のトラブルは、いつ始まっているのか―日頃の対応と、最後の対応

段ボール箱に私物をまとめる退職予定の社員

従業員の方が退職されるとき、会社には期限の決められた手続きがいくつもあります。その具体的な内容は、別の記事「従業員が退職するとき、会社が確認すべきこと」に整理しました。

ただ、ご相談を受けていて感じるのは、手続きをすべて済ませていても、後からトラブルになる会社と、ならない会社があるということです。

その違いは、退職を申し出られる「前」と「後」、二つの時期の対応にあります。順に見ていきます。

【退職を申し出られる前】
不満は、その前から積み上がっています

退職を申し出られた時点で、多くの場合、何かしらの不満はすでに積み上がっています。それは、その日に生まれたものではありません。

ここで知っておいていただきたいのは、法律上は問題がある状態であっても、必ずしもそれがすぐに争いになるわけではないということです。

働いている方が問題に気づいていないこともあります。気づいていても、会社に何も言わないこともあります。「今さら面倒だ」「争うほどのことではない」と諦める方もいるでしょう。そうであれば、表面上は何も起きません。

しかし、「今まで何も言われなかった」ということと、「会社のやり方に問題がなかった」ということは、まったく別の話です。たまたま問題にならなかっただけかもしれません。

反対に、日頃から必要なルールを整え、決めたことを説明し、判断の根拠を記録に残している会社では、そもそも不満が大きく育ちません。この時期の積み重ねが、いちばんの土台です。

【退職を申し出られた後】
最後の対応が、分かれ道になります

積み上がった不満は、その時点ではまだ「争い」ではありません。そこから先の会社の対応が、分かれ道になります。

退職をめぐる争いは、未払いの残業代や退職金といった「お金の問題」として表に出てきます。しかし、そこに至るまでの経過を伺うと、きっかけがお金そのものではないことが少なくありません。

会社のちょっとした一言や態度によって、それまで我慢していた不満が一気に噴き出す。そういう形で始まることが多いのです。

裏を返せば、会社がきちんと説明し、誠実に対応することで、「もういいか」と気持ちに区切りをつけていただけることもある、ということです。

「いろいろあったけれど、最後はきちんとしてくれた。悪い会社ではなかったな」

「あの最後の対応だけは許せない。訴えてやろうか」

同じ会社を辞めるとしても、この二つでは、その後がまったく違ってきます。日頃の対応が土台だとすれば、最後の対応は、その土台を活かすか、台無しにするかの仕上げにあたります。

退職を申し出られてからの、5つの対応

1. 退職の理由について、認識を合わせておく

退職の理由は、離職票の「離職理由」として記載され、失業給付の内容にも関わります。ここは、会社とご本人の受け止め方が食い違いやすいところです。

会社は「自己都合」と考えていても、ご本人は「実質的に辞めさせられた」と受け止めていることがあります。そのまま手続きを進めると、後日「会社都合のはずだ」と争いになりかねません。

2. 決まったことは、口頭ではなく書面で伝える

退職日、有給休暇の残日数と取得の予定、退職金の有無と計算の根拠、貸与品の返却期限。これらを書面でお渡ししておくと、後の行き違いを減らせます。

3. 期限のある手続きを、遅らせない

これが、いちばん多いトラブルのもとです。特に離職票が遅れると、退職された方はハローワークでの手続きができず、生活に直接影響します。

  • 雇用保険の資格喪失届・離職証明書 … 退職日の翌日から10日以内(雇用保険法施行規則第7条)
  • 健康保険・厚生年金の資格喪失届 … 退職日の翌日から5日以内(健康保険法施行規則第29条、厚生年金保険法施行規則第22条)
  • 退職時の証明書 … 本人から請求があった場合は遅滞なく交付(労働基準法第22条)

「手続きが遅い」「連絡しても返事がない」という状態は、それだけで会社への不信につながります。手続きの遅れは、気持ちの問題にも直結するのです。

4. 応じられないことは、理由を添えてお断りする

お断りすること自体が問題になるのではありません。理由がわからないまま拒まれることが、不信を生みます。「就業規則の第○条に基づき、このように判断しました」と説明できる状態にしておくことが大切です。

5. 最後に、ひとこと伝える

「いろいろあったけれど、今まで働いてくれてありがとう」

この一言があるかどうかで、退職される方の記憶は変わります。費用はかかりません。

ただし、要求をすべて受け入れる必要はありません

誠実に対応することと、相手の要求をすべて受け入れることは違います。

会社が法律上やるべきことは、きちんとやる。会社に非があるのであれば、認めて是正する。一方で、応じる必要のない要求については、理由を説明したうえで、きちんとお断りする。

大切なのは、事実と法律に照らして、会社としてどこまで対応すべきかを判断することです。根拠のないまま押し切られてしまうと、ほかの従業員との公平性にも関わってきます。

この対応は、いま働いている方々にも見られています

ここまでは、辞めていく方への対応の話でした。しかし、その対応を見ているのは、ご本人だけではありません。

退職する人に冷たい態度を取れば、残った従業員は「自分が辞めるときも、あんな扱いをされるのだろうか」と考えます。反対に、会社が最後まで必要なことを行い、礼節をもって接していれば、「この会社は、辞める人に対してもきちんと対応する会社なんだ」と受け止められます。

つまり、ひとりの退職への対応は、そのまま、いま働いている方々に対する日頃の対応の一部になります。最初にお話しした「土台」を、会社が自分で積み上げているのです。

まとめ

退職のトラブルを避けるために会社ができることは、二つの時期に分かれます。

  • 日頃 … 必要なルールを整え、決めたことを説明し、判断の根拠を記録に残す
  • 退職を申し出られてから … 期限のある手続きを遅らせず、決まったことは書面で伝え、応じられないことは理由を説明してお断りし、最後まで礼節をもって接する

どちらか一方では足りません。日頃の対応が土台であり、最後の対応がその仕上げです。この積み重ねがあれば、万が一争いになったときにも、「会社としてやるべきことはやりました」「このような理由で判断しました」「本人にはこう説明し、記録も残っています」と説明できる状態になります。

当事務所がこの考え方を大切にしている理由は、「労務管理について、私が大切にしていること」に詳しく書いています。あわせてお読みいただければ幸いです。

退職の対応でお困りのときは

「この要求には応じるべきなのか」「どこまで説明すればよいのか」といった判断は、その場で迷うことが多いところです。当事務所の労務顧問では、こうしたご相談を専用チャットでいつでもお受けしています。

まずは現状を確認したいという場合は、初回無料相談をご利用ください。

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