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地震で会社が休業したら―災害時に雇用を守るために知っておきたい制度

2026.08.05
誰もいない静かなオフィスの執務スペース

令和8年7月28日に発生した熊本地震により被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

地震をはじめとする自然災害は、今回被害を受けた地域だけの問題ではなく、他の地域でもいつ大きな災害が発生するか分かりません。

そこで今回は、会社が災害によって事業を続けることが難しくなったとき、「働く人の雇用をどう守るか」という視点から、社会保険労務士がお手伝いできる制度を整理してみたいと思います。

1. 会社の復旧には「人・資金・設備」が必要です

会社が事業を続けていくためには、「人・資金・設備」が欠かせません。

大規模な災害が発生すると、社屋や設備が被害を受けることがあります。また、売上が止まる一方で、家賃や人件費などの支払いは続くため、資金繰りの問題も生じます。

こうした被害に対しては、災害の規模や状況に応じて、設備の復旧や資金繰りに関するさまざまな公的支援が講じられることがあります。

そして、もう一つ忘れてはならないのが、そこで働いている「人」です。

建物や設備を復旧できても、事業を再開するときに働く人がいなければ、会社は元の状態には戻れません。

事業を一時的に止めざるを得なくなったとき、従業員の雇用と生活をどのようにつないでいくのか。ここに、社会保険労務士がお手伝いできる分野があります。

2. まず考えたいのは「雇用を維持できるか」

災害によって通常どおり営業することができなくなった場合、会社が従業員を一定期間休業させることがあります。

このとき検討される制度の一つが、雇用調整助成金です。

雇用調整助成金は、景気の変動や産業構造の変化といった「経済上の理由」によって事業活動を縮小せざるを得なくなった事業主が、従業員を解雇するのではなく休業などによって雇用を維持し、休業手当等を支払った場合に、その一部を助成する制度です。

今回の熊本地震についても、厚生労働省や熊本労働局・ハローワークが、雇用調整助成金を含む雇用関係助成金の活用について相談を受け付けています。

ただし、注意したいのは、「地震で休業したら、すべて雇用調整助成金の対象になる」というわけではないことです。

例えば、地震によって会社の建物そのものが壊れたという事実だけでは、雇用調整助成金における「経済上の理由」には当たりません。

一方で、道路や交通機関が被害を受けて原材料が入ってこない、製品を出荷できない、設備を修理したくても修理業者や部品を確保できない、といった事情から事業活動を縮小せざるを得ない場合には、対象となる可能性があります。

災害時には、こうした制度を利用しながら、できる限り雇用を維持する方法を検討することになります。

3. 地震による休業では「休業手当」はどうなる?

もう一つ重要なのが、休業中の賃金です。

労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由」によって労働者を休業させた場合、会社は原則として平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないとされています。平均賃金とは、原則として直前3か月間に支払った賃金の総額を、その期間の暦日数で割った金額です。

しかし、地震などの天災による休業だからといって、すべて同じ取扱いになるわけではありません。

例えば、地震によって会社の施設や設備が直接被害を受け、そのために従業員を休業させる場合には、「不可抗力」として、原則として労働基準法上の休業手当を支払う義務はないと考えられています。

ここでいう「不可抗力」といえるためには、次の2つをどちらも満たす必要があるとされています。

  • その原因が、事業の外部から発生した事故であること
  • 事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしても、なお避けることができない事故であること

一方、会社の施設・設備には直接の被害がないものの、取引先や鉄道・道路が被災して原材料の仕入れや製品の納入ができなくなったために休業する場合は、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当すると考えられています。

ただし、この場合でも、上の①②の要件をどちらも満たすときは、例外的に該当しないとされます。具体的には、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、ほかの代替手段の可能性、災害発生からの期間、休業を避けるために会社としてどのような努力をしたか、といった事情を総合的に見て判断されます。

つまり、

「地震による休業だから休業手当は不要」
とも、
「休業させたのだから必ず60%を支払わなければならない」
とも、一律には判断できません。実際の被災状況や、休業に至った原因を確認する必要があります。

なお、休業させる日に年次有給休暇を充てられるかどうかについては、災害のときの年次有給休暇―会社から「有休を使って」と言えるのかで詳しくご説明しています。

4. 復旧作業のために時間外労働が必要になったとき

災害のときには、休業とは反対に、復旧のためにどうしても長時間の作業が必要になることもあります。

労働基準法第33条第1項では、災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合には、所轄の労働基準監督署長の許可を受けて、いわゆる36協定の範囲を超えて時間外労働・休日労働をさせることができるとされています。

事態が急迫していて事前に許可を受ける時間がないときは、事後に遅滞なく届け出ることでも認められます。

ただし、これは臨時に必要な範囲に限られます。また、この場合でも割増賃金の支払いは必要です。

なお、災害の発生から相当の期間が経ち、臨時の必要がなくなった後も時間外労働をさせるときは、通常どおり36協定の締結・届出が必要になります。

5. 災害を理由に解雇することはできるのか

被害が大きいと、解雇や雇止めを考えざるを得ない場面もあります。しかし、災害を理由にすれば無条件に解雇や雇止めが認められる、というものではありません。

期間の定めのない従業員の解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、権利の濫用として無効になります(労働契約法第16条)。災害で操業できなくなったことを理由とする解雇は、いわゆる「整理解雇」に当たると考えられ、裁判では次の4つの点が考慮されています。

  • 人員整理の必要性があるか
  • 解雇を回避する努力を尽くしたか
  • 解雇する人の選び方が合理的か
  • 解雇の手続が妥当か

契約期間の定めのある方(パート・契約社員など)を期間の途中で解雇するには「やむを得ない事由」が必要で(労働契約法第17条第1項)、期間の定めのない方の解雇よりも無効と判断される可能性が高いとされています。契約更新を繰り返してきた場合などは、雇止めが認められないこともあります(労働契約法第19条)。

「天災事変」を理由に解雇予告を省くには、労働基準監督署長の認定が必要です

労働基準法第20条では、従業員を解雇するときは少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないとされています。

「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」はこの予告が不要になりますが、そのためには所轄の労働基準監督署長の認定を受ける必要があります。会社の判断だけで「災害だから予告はいらない」とすることはできません。

この「事業の継続が不可能となった場合」に当たるかどうかも、休業手当と同じように分かれます。会社の施設・設備が直接被害を受けて事業の全部または大部分が継続できなくなった場合は、原則として当たると考えられます。一方、施設・設備に直接の被害がない場合は、原則として当たりません(取引先への依存の程度や輸送経路の状況などを総合的に見て、真にやむを得ないと判断されるときに、例外的に当たります)。

また、業務上のケガや病気で休業している期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間は、原則として解雇できません(労働基準法第19条)。育児休業・介護休業の申出や取得を理由とする解雇その他の不利益な取扱いも禁止されています(育児・介護休業法第10条・第16条)。

このほか、避難所にいて通勤できないことだけを理由に解雇することは、一般的には相当でないとされています。退職願を出すよう求めることについても、退職はあくまで従業員本人の自発的な意思によるものである必要があります。まずは労使でよく話し合い、不利益を避ける方法を探すことが大切です。

6. それでも雇用を維持できないとき―雇用保険の特例

大きな被害を受ければ、雇用を維持したくても、事業そのものを一時的に休止せざるを得ない場合があります。

こうした場合に、通常とは異なる雇用保険の特例措置が設けられることがあります。

災害救助法が適用された地域にある事業所が被災して事業を休止・廃止し、労働者が一時的に離職せざるを得なくなった場合には、事業再開後に元の会社へ再雇用される予定であっても、一定の要件を満たせば雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)を受給できる特例があります。

令和8年熊本地震についても、熊本県内の10市10町1村に災害救助法が適用されたことに伴い、この特例措置が案内されています。

さらに、激甚災害に指定され、あわせて激甚災害法第25条(雇用保険法による求職者給付の支給に関する特例)の措置が適用された場合には、対象地域の事業所が休業し、会社を辞めていなくても、働くことができず賃金を受け取れない労働者について、雇用保険上「失業」とみなして基本手当を受給できる仕組みがあります。

いずれの特例も、雇用保険の被保険者期間が6か月以上あることなどの受給要件を満たす方が対象です。また、この特例を受けた場合、あらためて離職したときの基本手当の給付日数などに影響することがあります。

「雇用を維持するための制度」だけでなく、どうしても事業を止めざるを得ない場合に、従業員の生活をつなぐための制度も用意されています。

7. 仕事中や通勤中に地震で被災した場合―労災保険

災害時には、従業員自身が被災することもあります。

仕事中や通勤中に地震によって負傷した場合など、業務または通勤との関係が認められるときには、労災保険の対象となる場合があります。

厚生労働省は過去の大規模地震についても、仕事中に地震や津波により被災した場合や、通勤途上で被災した場合の労災保険の取扱いを示しています。

また、災害時には会社そのものが被災していたり、医療機関が通常どおり機能していなかったりして、労災請求に必要な証明をすぐに受けられないことも考えられます。

令和8年熊本地震について厚生労働省は、事業主や医療機関から証明を受けることが困難な場合には、証明がなくても労災保険の請求書を受け付けることを案内しています。

非常時だから書類がそろわない、という理由だけで、必要な給付をあきらめる必要はありません。

8. 事業主に対する支援もあります

従業員への支援だけではありません。

災害によって会社の財産に大きな損失が生じ、労働保険料等を一度に納付することが難しくなった場合には、一定の要件のもとで労働保険料等の納付の猶予を受けられる場合があります。健康保険・厚生年金保険の保険料についても、同様の猶予制度があります。

また、災害によって会社が倒産し、従業員に賃金を支払うことができなくなった場合に利用される未払賃金立替払制度(賃金の支払の確保等に関する法律第7条)についても、令和8年熊本地震では申請手続の簡略化が行われています。

こうした制度を利用することも、会社の負担を軽くし、従業員の生活を支えるための一つの手段になります。

9. 災害が起きてからではなく、平時にできること

ここまで、災害時に利用できる制度をご紹介しました。

しかし、本当に大切なのは、災害が起きてから初めて考えるのではなく、平時のうちに「会社が止まったとき、どうするか」を考えておくことだと思います。

例えば、次のようなことです。

  • 災害で会社を休業するとき、賃金をどのように取り扱うのか
  • 就業規則に災害時の取扱いが定められているか
  • 従業員への緊急連絡手段を確保しているか
  • 業務上の情報や従業員情報など、必要なデータをバックアップしているか
  • 一時的にテレワークへ切り替えられる業務はないか

災害対策というと、非常食や防災用品、建物・設備の対策に目が向きがちです。

しかし、会社が事業を再開するためには、そこで働いてきた人たちが戻ってこられる状態を残しておくことも重要です。平時のうちに、一度確認しておくことをおすすめします。

まとめ

  • 災害による休業でも、雇用調整助成金の対象になるかどうかは「経済上の理由」に当たるかで決まります
  • 休業手当が必要かどうかは被災の状況によって変わり、「地震だから不要」とは限りません
  • 復旧のための時間外労働には、労働基準監督署長の許可(急迫しているときは事後の届出)が必要です
  • 災害を理由にすれば無条件に解雇できるわけではなく、解雇予告を省くにも労働基準監督署長の認定が必要です
  • 雇用を維持できない場合にも、雇用保険の特例で従業員の生活をつなぐ仕組みがあります
  • いちばん大切なのは、平時のうちに「会社が止まったときどうするか」を決めておくことです

災害時の労務対応は、判断に迷う場面が多い分野です。労務顧問として日ごろから会社の状況を把握していれば、いざというときの判断も早くなります。ご不安な点がありましたら、お気軽にご相談ください

参考資料

【令和8年8月7日 追記】 厚生労働省から「令和8年熊本地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A」(令和8年8月7日付)が公表されました。休業手当や災害時の時間外労働、解雇・雇止めのほか、派遣労働者の取扱い、賃金の支払い、年次有給休暇、労災補償など幅広い論点が、実際のご質問に沿って解説されています。本記事も、このQ&Aの内容にあわせて一部を加筆・修正しました。

厚生労働省では、令和8年熊本地震に関する情報を随時更新しています。ご確認の際は、必ず最新の情報をご覧ください。

※本記事は令和8年8月7日時点の情報をもとにした一般的な説明です。災害時の特例措置は随時追加・変更されます。また、実際の取扱いは被災の状況によって異なりますので、個別の判断については当事務所、または所轄の労働局・労働基準監督署・ハローワークにご相談ください。

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