2026年10月からカスハラ対策が義務に―会社が準備すること

2026年10月1日から、会社にカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務付けられます(改正労働施策総合推進法・令和7年法律第63号 第33条)。パワーハラスメントのときのような中小企業の猶予期間はなく、会社の規模にかかわらず同じ日から義務となります。
「カスハラ対策と言われても、具体的に何をすればよいのか」という人事・総務のご担当者に向けて、会社が準備しておきたいことを整理します。
1. どのような行為が「カスハラ」になるのか
職場におけるカスタマーハラスメントとは、次の3つをすべて満たすものをいいます(令和8年厚生労働省告示第51号の指針)。
- 顧客等の言動であること
- その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- それによって労働者の就業環境が害されるものであること
厚生労働省の資料では、次のようなものが典型的な例として挙げられています。
- 暴行・傷害
- 脅迫・中傷・侮辱・暴言
- 土下座の強要
- 威圧的な言動
- 継続的・執拗な言動
- 居座りなどの拘束的な言動
- 不当な損害賠償の要求
対面や電話だけでなく、メールやSNSなどインターネット上で行われるものも対象になります。
「社会通念上許容される範囲を超えた」かどうかの見方
厚生労働省は、次のいずれかに当たるものを指すとしています。
- 言動の内容が、契約内容からして相当性を欠くもの
- 言動の手段や態様が相当でないもの
判断にあたっては、言動の目的、そこに至った経緯や状況、業種・業態、業務の内容、言動の態様・頻度・継続性、労働者の心身の状況、相手との関係性などを総合的に考えます。「内容」と「手段」のどちらか一方だけが範囲を超える場合でも、該当し得るとされています。
2. すべてのクレームが「カスハラ」ではありません
ここは注意が必要です。顧客から苦情や要求があったからといって、すべてがカスハラになるわけではありません。
厚生労働省も、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正式な申入れであり、カスタマーハラスメントには当たらないとしています。商品に不具合があった場合の苦情や、会社側の対応に問題があった場合の正当な要求まで拒絶してよい、という制度ではありません。
そのため会社では、「どのような場合にカスハラとして対応するのか」について、あらかじめ考え方を整理しておくことが重要です。ここが決まっていないと、現場の従業員が判断できず、結局ひとりで抱え込むことになります。
特に気をつけたい—障害のある方からの申出
障害のある方が、障害者差別解消法で禁止されている不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁を取り除いてほしいという意思を伝えること自体は、カスタマーハラスメントには当たりません。
むしろ会社には、その負担が過重でないときは、社会的障壁を取り除くために必要かつ合理的な配慮をする義務があります。カスハラ対策を進めるときに、この点を取り違えないようご注意ください。
3. 接客業だけの問題ではありません
「うちは一般消費者を相手にする会社ではないから関係ない」と思われるかもしれません。しかし、ここでいう「顧客等」の範囲は、次のとおり広く定められています。
- 商品の購入やサービスの利用をする方(今後利用する可能性がある方も含みます)
- 会社の事業内容について問い合わせをする方
- 取引先の担当者、契約締結に向けた交渉を行う担当者(今後取引する可能性のある方も含みます)
- 施設・サービスの利用者、およびその家族
- 施設の近隣にお住まいの方など
企業間の取引が中心の会社でも、取引先から従業員に対する著しい迷惑行為があれば対象となり得ます。業種にかかわらず、一度確認しておきましょう。
4. 会社が行わなければならないこと
2026年10月から義務となる措置を整理すると、次のようになります。
① 会社の方針を決めて、従業員に周知する
「会社はカスハラに毅然と対応し、従業員を守る」という方針を明確にします。あわせて、どのような行為をカスハラと考えるのか、カスハラが起きたときにどう対応するのかについても、従業員に周知します。就業規則や服務規律を定めた文書に規定しておく方法が一般的です。
② 相談窓口を決める
従業員がカスハラを受けたときに相談できる窓口をあらかじめ決め、従業員に周知します。窓口を作るだけでなく、相談を受けた担当者が適切に対応できるようにしておくことも必要です。
③ カスハラが起きた場合の対応を決める
相談があった場合には、事実関係を迅速かつ正確に確認します。カスハラが確認された場合には、被害を受けた従業員への配慮や、再発防止のための措置を行います。
④ 抑止のための措置を決める
カスハラについては、対応の実効性を確保するための抑止のための措置も求められます。具体的には、従業員をひとりで対応させないこと、犯罪に当たり得る行為は警察へ通報すること、本社と情報を共有して指示を受けることなどです。どの段階で誰に代わるのかを、あらかじめ決めておきましょう。
⑤ 相談した従業員を不利益に取り扱わない
カスハラについて相談したこと、または会社の対応に協力して事実を述べたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはいけません(同法第33条第2項)。この点を定めて周知するとともに、相談者等のプライバシーを保護するための措置も必要です。
⑥ 他社から協力を求められたときは応じるよう努める
取引先など他の会社から、その会社が行うカスハラ対策への協力を求められた場合には、これに応じるよう努めることとされています(同法第33条第3項)。自社の従業員を守るだけでなく、取引先の従業員に対する自社の従業員の言動にも目を向ける、ということです。
5. まずは「誰に相談するか」を決めるところから
ここまで読むと、「規程を作って、マニュアルを作って、研修もして……」と大掛かりに感じるかもしれません。
しかし、まず確認したいのは、「従業員がカスハラを受けたとき、誰に相談すればよいのか」が決まっているかどうかです。
小規模な会社であれば、「従業員 → 上司 → 人事・経営者」といった相談・報告のルートを明確にするところから始めることもできます。
そのうえで、「このような場合はひとりで対応しない」「この段階になったら上司に代わる」「悪質な場合は警察への通報も検討する」など、現場で迷わないための対応方法を整理していきましょう。就業規則やハラスメント防止規程に位置づけておくと、社内で共有しやすくなります。
基本方針の文例や記録様式など、実際に用意するものはカスハラ対策で10月までに用意する5つのもの【実務編】で具体的にご説明しています。
10月までに会社で確認しておきたいこと
- カスハラに対する会社の方針を決めているか
- その方針を従業員に周知しているか
- 相談窓口・相談担当者を決めているか
- カスハラが発生した場合の報告ルートを決めているか
- ひとりで対応させない仕組みなど、抑止のための措置を決めているか
- 相談者のプライバシー保護と、不利益取扱いの禁止を周知しているか
特に、現場の従業員がひとりで抱え込む状態になっていないかを確認してみてください。
カスハラ対策は、単に「お客様に厳しく対応するため」の制度ではありません。正当な苦情には適切に対応しながら、社会通念上許容される範囲を超えた言動については、従業員個人に対応を任せず、会社として対応する仕組みを作ることが目的です。
同じ10月1日からは、採用活動における求職者等へのセクシュアルハラスメント対策も義務になります。10月の変更の全体像は2026年10月から何が変わる?確認したい5つのポイントで、社内のハラスメント対策の考え方は横浜市長のパワハラ問題から考える会社のハラスメント対策でご説明しています。
ハラスメント防止規程の整備は就業規則の作成・見直しで、相談体制や運用の点検は労務リスク点検パックでお手伝いしています。「この対応で問題ないか」といったご相談は、労務顧問として継続的にお受けしています。初回のご相談は無料・予約制です。お気軽にお問い合わせください。
参考資料
- 厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」(PDF)
- 厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!カスタマーハラスメント対策の義務化」(PDF)
- 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(PDF)
※本記事は令和8年8月29日時点の情報をもとにした一般的な説明です。実際の取扱いは個別の事情によって異なりますので、判断に迷われる場合は当事務所、または所轄の都道府県労働局(雇用環境・均等部室)にご相談ください。










