最低賃金が上がると、扶養内パートの働ける時間はどうなる

最低賃金が上がると、同じ時間だけ働いていても給与額は増えます。
そのため、「社会保険の扶養の範囲内で働きたい」というパート・アルバイトの方がいる会社では、最低賃金の引上げにあわせて、勤務時間や労働条件を確認しておく必要があります。
人事・総務のご担当者が確認しておきたいポイントを整理します。なお、この記事でご説明するのは健康保険の扶養(社会保険の扶養)で、所得税の配偶者控除などとは基準が異なります。
1. 社会保険の扶養は原則「年間収入130万円未満」
健康保険の被扶養者となるための収入要件は、原則として年間収入130万円未満です。ただし、次の方は基準額が異なります。
- 60歳以上の方、障害者の方 180万円未満
- 19歳以上23歳未満の方 150万円未満
130万円を単純に12か月で割ると、130万円 ÷ 12か月 = 約10万8,333円となります。
ただし、これは「毎月10万8,333円未満でなければ扶養に入れない」という意味ではありません。あくまで年間収入を考える際の一つの目安です。また、扶養の判定は過ぎた1年ではなく、これから先1年間の収入の見込みで行います。
2. 2026年4月から、労働契約の内容で判定する取扱いが始まりました
2026年4月1日から、給与収入のみの方について、労働条件通知書や雇用契約書などに定められた賃金から見込まれる年間収入が基準額未満であれば、原則として被扶養者として取り扱う仕組みが始まりました(令和7年10月1日付 保保発1001第3号・年管管発1001第3号)。
時給、所定労働時間、所定労働日数、各種手当といった労働契約の内容から、年間収入を見込んでいきます。労働契約に明確な定めがなく、あらかじめ見込むことが難しい時間外労働の賃金などは、この年間収入には原則として含めません。
会社にとって大切なのは、雇用契約の内容そのものが判定の材料になったという点です。次のような場合には、この取扱いは使えません。
- 契約期間が1年未満の場合
- 「シフト制による」など、労働時間の記載が不明確な場合
- 手当の金額が不明確な場合
「扶養内希望だから、毎月のシフトで調整すればよい」ではなく、まず雇用契約書の書き方を確認することが出発点になります。
なお、労働契約の内容で被扶養者と認定された方について、当初想定されなかった臨時収入によって結果的に年間収入が基準額以上になった場合でも、その臨時収入が社会通念上妥当である範囲にとどまる場合には、扶養から外す必要はないとされています。
3. 通勤手当や賞与も含めて考えます
ここは注意したいポイントです。この年間収入でいう賃金とは、労働基準法第11条に規定される賃金をいい、諸手当および賞与も含まれます。
つまり、通勤手当も含めて年間収入を考える必要があります。所得税では通勤手当が一定額まで非課税となるため混同されやすいところですが、社会保険の扶養の判定では含めて考えます。
「基本給だけなら130万円未満だから大丈夫」と判断しないようにしましょう。
4. 最低賃金が上がると、働ける時間が短くなることも
たとえば、次のような方がいたとします。
- 社会保険の扶養内で働くことを希望している
- 時給1,279円(2026年10月からの神奈川県の最低賃金)
- 通勤手当 月8,000円
- 給与収入のみ
年間130万円未満を目安に考えると、通勤手当が年間で96,000円(8,000円×12か月)ありますので、給与本体に使える金額は次のようになります。
1,300,000円 − 96,000円 = 1,204,000円
これを時給で割ると、1年間に働ける時間の目安が出ます。
1,204,000円 ÷ 1,279円 = 約941時間(1か月あたり約78時間)
この例では、労働条件通知書や雇用契約書に定める所定労働時間を、1か月あたり78時間程度までにすることが一つの目安となります。時給が上がるほど、働ける時間は短くなっていきます。
※実際の被扶養者の認定は、個別の労働契約や収入の状況等によって判断されます。上記は仕組みを分かりやすくするための概算例です。
5. その前に「本人が社会保険に加入しないか」を確認しましょう
ここが最も大切なところです。「130万円未満なら扶養に入れる」とは限りません。
本人が勤務先の健康保険・厚生年金保険の加入要件を満たしている場合には、扶養ではなく、本人が社会保険に加入することになります。
短時間労働者については、2026年10月から「月額賃金8.8万円以上」という賃金要件が撤廃される予定です。撤廃されると、週の所定労働時間が20時間以上かどうかが、これまで以上に重要な分かれ目になります(この時点で対象となるのは、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業です)。
「130万円未満だから扶養」と考える前に、まず本人の社会保険の加入要件を確認しましょう。詳しくは2026年10月から何が変わる?確認したい5つのポイントでもご説明しています。
6. 勤務時間を減らすと、雇用保険にも影響することがあります
扶養内に収めるために勤務時間を減らした結果、週の所定労働時間が20時間未満になることも考えられます。
雇用保険は、現在は原則として次の要件を満たす場合に加入します。
- 31日以上の雇用見込みがあること
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
そのため、契約上の週所定労働時間を20時間未満に変更すると、雇用保険から外れる場合があります。失業したときの給付や、育児休業給付などにも関わってきますので、本人にきちんとお伝えしておきたいところです。
なお、この週20時間という要件は、2028年10月1日から「週10時間以上」に広がる予定です(令和6年改正雇用保険法)。いま20時間を下回るように調整しても、将来は加入対象になる可能性がある、ということです。
最低賃金の改定前に、本人と確認しておきましょう
扶養内で働いている従業員がいる場合には、改定前に次の点を確認しておきましょう。
- 本人が扶養内での勤務を希望しているか
- 現在の時給・所定労働時間
- 通勤手当などを含めた年間収入の見込み
- 雇用契約書に、所定労働時間や手当が明確に書かれているか
- 本人が社会保険に加入する対象にならないか
- 勤務時間を変更した場合、雇用保険に影響しないか
最低賃金が上がってから慌てて勤務時間を調整するのではなく、会社と従業員で事前に働き方を話し合っておくことが大切です。扶養の範囲は本人の家計に直結しますので、伝え方にも配慮したいところです。
10月からの最低賃金そのものについては、神奈川の最低賃金1,279円へ―誰の給与をどう確認するかでご説明しています。
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参考資料
- 日本年金機構「労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて」
- 厚生労働省「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて」(令和7年10月1日 保保発1001第3号・年管管発1001第3号)
- 厚生労働省「『年収の壁』への対応」
- 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」
- 厚生労働省「雇用保険の適用範囲が拡大されました」
※本記事は令和8年8月29日時点の情報をもとにした一般的な説明です。実際の被扶養者の認定は、加入されている健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)の判断によります。判断に迷われる場合は当事務所、または年金事務所・加入されている健康保険にご相談ください。










