会社を守る一番の方法は、会社がちゃんとすること。
労務管理は、問題が起きたときに会社を守るためだけのものではありません。会社としてやるべきことを普段からきちんと行い、従業員に対して誠実に対応する。そうすることで、そもそも争いが起きにくい会社をつくる。そのうえで、それでも争いが起きたときには、会社を守れる状態にしておく。普段からの一つひとつの対応の積み重ねが、一番の労務管理だと考えています。
「何も言われなかった」と「問題がなかった」は別の話
労務の相談を受けていると、法律上は問題がある状態であっても、必ずしもそれがすぐに労働者との紛争になるわけではない、と感じます。
労働者が問題に気づいていないこともあります。気づいていても、会社に何も言わないこともあります。「今さら面倒だ」「争うほどのことではない」と諦める人もいるでしょう。そうであれば、表面上は何も起きません。
しかし、「今まで何も言われなかった」ということと、「会社のやり方に問題がなかった」ということは、まったく別の話です。たまたま問題にならなかっただけかもしれません。
労働法には、労働者を保護するための規定が数多くあります。そして昨今は、インターネットやSNSなどで、そういった情報が広く出回っています。
「今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫だろう」という考え方は、労務管理の面では大変危険です。実は導火線に火がついていて、あとは爆発を待つだけ、という状態かもしれません。ある日突然、労働者から請求や訴えを受けることもあるのです。
では、会社はどうすればよいのか
結局のところ、「会社としてやるべきことを、きちんとやること」しかありません。
- 法律を守る。
- 必要なルールを整える。
- 必要な手続きをする。
- 判断の根拠を記録に残す。
- 従業員に丁寧に説明する。
- そして、人として誠実に対応する。
これらはただ単に「法令を守っている」だけではありません。従業員が気持ちよく働ける環境を作る、ということです。
紛争が起きてから「どうすれば会社の損害を小さくできるだろう」と考えるよりも、そもそも紛争が起きにくい状態を日頃から作っておく。それが、会社のリスクをできるだけ小さくすることにつながります。
「人が辞めるとき」の対応を、特に大切に思っています
会社様からご相談を受ける中で、私が特に大切だと感じているのは、「人が辞めるとき」の会社の対応です。
退職に至るまでには、いろいろな事情があります。会社に不満を持って辞める人もいるでしょう。会社としても、その従業員に対して言いたいことがある場合もあります。
それでも最後に、「いろいろあったけれど、今まで働いてくれてありがとう」と送り出すことができるか。
従業員に対して腹立たしい気持ちがあったとしても、それを最後にぶつけるのではなく、必要な手続きをきちんと行い、最後まで礼節をもって接する。その対応一つで、相手の気持ちはかなり変わります。
「いろいろあったけれど、最後はきちんとしてくれた。悪い会社ではなかったな」と思って辞めるのか。
それとも、「あの最後の対応だけは許せない。訴えてやろうか」と思って辞めるのか。
労務紛争のすべてが、純粋にお金や法律だけで動いているわけではありません。会社のちょっとした一言や態度によって、それまで我慢していた不満が一気に噴き出すのです。反対に、会社がきちんと説明し、誠実に対応することで、「もういいか」と気持ちに区切りをつけられることもあるでしょう。
だから私は、相手に誠実に対応することも、立派な労務リスク管理の一つだと思っています。
誠実な対応と、要求を受け入れることは違います
ただし、誠実に対応することと、相手の要求をすべて受け入れることは違います。
会社が法律上やるべきことは、きちんとやる。会社に非があるのであれば、それを認めて是正する。一方で、会社として応じる必要のない要求については、理由を説明したうえで、きちんと線を引く。
会社の言い分だけを鵜呑みにするのでもなく、労働者の言い分をすべて正しいと考えるのでもなく、事実と法律に照らして、会社としてどこまでやるべきなのかを判断することが必要だと思います。
労務管理には、二つの段階があります
それでも、どうしても紛争になることはあります。会社が誠意を尽くし、法律上必要な対応をしても、それでは納得しない人もいます。そこまで完全に防ぐことはできません。
だからこそ、労務管理には二つの段階があると考えています。
第一は、「そもそも紛争を起こさないための労務管理」です。法律を守り、制度を整え、記録を残し、説明を尽くし、人に対して誠実に対応する。そうすることで、できる限り紛争の芽を小さくする。
第二は、「それでも紛争が起きてしまったときに、会社を守るための労務管理」です。そのとき、
「会社としてやるべきことはやりました」
「このような理由で判断しました」
「本人にはこのように説明しました」
「その記録も残っています」
と、客観的に説明できる状態にしておく。そうすれば、紛争そのものを完全に防ぐことはできなくても、会社が受ける損害をできるだけ小さくすることはできます。
会社の姿勢を見ているのは、辞める本人だけではありません
こうした会社の姿勢を見ているのは、問題になっている本人だけではありません。今、その会社で働いている従業員も見ています。
たとえば、退職する従業員に対して会社が冷たい態度を取れば、残った従業員も、「自分も辞めるときには、あんな扱いをされるのだろうか」と思うでしょう。
反対に、たとえ会社と従業員との間にいろいろな問題があったとしても、会社が最後まで必要なことを行い、相手に対して礼節をもって接していれば、「この会社は、辞める人に対してもきちんと対応する会社なんだ」と感じるでしょう。
そういう一つ一つの対応が、会社に対する信頼につながっていくのだと思います。
「ちゃんとしている会社だ」と思ってもらえる会社に
法律を守っているから、それで終わりではない。問題にならなければ、それでよいわけでもない。
- 会社としてやるべきことをきちんとやる。
- 人に対して誠実に接する。
- 必要なところでは、きちんと線を引く。
- そして、万が一紛争になったときには、「会社としてやるべきことはすべてやった」と説明できる状態にしておく。
その積み重ねによって、従業員からも、退職した人からも、そして外から見ても、「ちゃんとしている会社だ」と思ってもらえる会社になる。
私は、それが会社にとって一番強い労務管理なのではないかと思っています。
みなみ社会保険労務士事務所
代表 社会保険労務士 高橋 勇
当事務所は、この考え方でお客様の労務管理をお手伝いしています。
「うちの場合はどうすれば?」という段階のご相談も歓迎です。











